SCHOOLお菓子教室

シフォンケーキと私

エンゼルケーキ

*エンゼルケーキは、どんなお菓子?

  エンゼルケーキは、200年以上も前にアメリカで生まれたお菓子です。
 
  ペンシルバニアダッチと呼ばれる人たちが、ヌードル(麺)を作るのに卵黄を使い、あまった残りの卵白を利用することから考え出されたそうです。
 
  卵白だけで作ったケーキは白くふわふわと軽く、天使の食べ物にふさわしいということからエンゼルケーキという名がつけられ、その白いお菓子のために作られた型を、エンゼルケーキ型と言いました。

  ハリーベーカー氏は、シフォンケーキを作るのにエンゼルケーキを基に考えたということなので、そのままエンゼルケーキの型を使ったのでしょう。

 エンゼルケーキは、私にとってとても思い出深いお菓子の一つです。というのは、私が、お菓子作りを習い始めたときに最初に教えてもらったのが、エンゼルケーキだったのです。
  その時使った型はドーナツの様なリング状のものでした。40年位前、お菓子の道具が豊富にはなかった時代、日本の中にあるもので作ろうとしたら、エンゼルケーキと同じ様な中央があいている形のものは、その型しかなかったのだと、思います。

 その頃、営んでいた店で料理の都合上卵白が残ったので、その卵白でエンゼルケーキの練習をよくしたものです。上達してうまくできると売ったりして、、、。
 
      懐かしい思い出です。

*シフォンケーキとの出会い

 私が初めてシフォンケーキというお菓子と出会ったのは、子供が小学校に通い始めたころ。

 ‘お土産!と、友人が買ってきてくれたお菓子を見てビックリ! いつも食べているケーキの倍位ある大きさで、口に入れると、今まで食べていたケーキにはないフワッとした柔らかい食感、口に広がるかすかな塩味。

 友人曰く、「これは、今、東京で流行っているシフォンケーキと言うお菓子だよ」

 かすかな塩味と、口の中でスーと溶けていくような感じがケーキの大きさを感じさせず、いくつでも食べてしまいそう。その日から私には、シフォンケーキが忘れられないお菓子になりました。

 雑誌などにシフォンケーキが載っているのを見ると、「シフォンケーキを作ってみたい!」と、思うようになり、当時通っていたお菓子教室の先生方に作り方を聞いて回ったのですが、

   「シフォンケーキ?知らないなぁ。それってどんなケーキ?」

と、逆に聞かれてしまうのです。どうして?どうしてお菓子の先生が知らないの?フランスや、スイス、ドイツなど、いろいろな国で勉強してきた人達なのに、どうして?

 

 そんな疑問を抱えたままシフォンケーキを作ることをあきらめかけた頃、一人の先生が「次、シフォンケーキの講習をします。」と、言うではありませんか。やっとシフォンケーキが作れると思うと、嬉しくてレッスンの日が待ちきれませんでした。
 
 教えてくれた方は大きなホテルのシェフで、作ったものはシナモンのシフォンケーキ。シナモンはあまり好きではありませんでしたが、シフォンケーキを作れるというだけで、大満足。

 洋菓子というとバター(脂)を使うのに、シフォンケーキは油を使うと知り、ビックリしました。

 その頃には、チラホラ雑誌にもシフォンケーキが取り上げられたりしていましたので、先生に教えてもらった作り方を基に、本に書かれているものを参考にしていろいろな種類のシフォンケーキに挑戦してみました。

*アメリカのシフォンケーキ
 自分なりのレシピがいくつか出来ると、誰かに食べてもらいたくなります。

 その当時にはお菓子教室を始めていたので、教室のイベントとして『シフォンケーキのバイキング』を思いつき、生徒さん達と一緒にシフォンケーキを作って、お祭り気分でたくさんの人たちに食べてもらいました。

 集まった人たちの中に、小学校のときの同級生が連れて来てくれた外国の女性が一人いました。名前はシェリーさん。その人はアメリカのオレゴン州から、町の高校に英語を教えに来た先生だということでした。

 彼女は、「シナモンやチョコレートはしっているけど、かぼちゃや人参の入ったシフォンケーキは初めて」と言って、いろんな種類のシフォンケーキを食べてくれました。
 お菓子を作るのが大好きと聞き、月に1度私のところでアメリカのお菓子を教えてくれないかと頼んだら、「日本に来てお菓子を作る機会がなかったので、うれしいと!」と、喜んでくれ、早速今月からと話がすぐまとまってしまいました。

 約束の日、彼女は分厚い本をかかえてやってきました。
 『Whatdo you make?』と言いながら、料理とお菓子の作り方を書いてある厚い本をめくり始めました。その中に、シフォンケーキがあるではないでか!
 
  『あっ!それ、そのシフォンケーキ作って!』と、叫んでしまいました。

 『I want to make it』『オレンジアリマスカ?』 たどたどしい彼女の日本語と、意味が通じているかどうか疑わしい私の英語とのやりとり、お互いにそれぞれの国の辞書を引き引き、どうにか意思の疎通をとることが出来ました。

 本に載っていたのはオレンジのシフォンケーキ。それを作るにあたって、オレンジの皮の煮たもの(オレンジピール)は、私が作ってあったものを使い、ベーキングパウダーも手持ちのもので間に合ったのですが、クリームオブターターがない!『ナイ、O.K』と言って、彼女は、ある材料で作り始めました。

 初めて見るアメリカの人が作るシフォンケーキ。どんな風に作るのだろう?どんな味なんだろう?ワクワク、ドキドキしながら彼女が作る様子を見つめました。

 エ????? そんな作り方でできるの?思わずそう言いたくなるほど彼女の作り方は衝撃だったのです。

 私が日本で教えてもらったり、本で見たりしたのは、まず卵黄と砂糖をよく混ぜ(あるいは、泡立てる)、水(又は油)を加える。その中に、少しずつ油(又は水)をいれてから、ベーキングパウダーを混ぜた小麦粉を練らないように合わせていく、というやり方だったのに、彼女は、いきなり、卵黄、水、油、小麦粉、ベーキングパウダー、オレンジピール、砂糖と、全部一緒にボールに入れ、ハンドミキサーでグルグルと数分練るようにかき回したのです。まるで逆!

 日本の先生に、水と油は混ざりにくいものなので丁寧に混ぜること、粉は練らないようにさっくり合わせること、と言われていたのに、練ってしまうなんて!!!これは絶対まずい、アメリカの食べ物は美味しくないと聞いていたけど、やっぱり!!!と心の中で囁いていました。

 彼女はハンドミキサーを使い、ガーと卵白と砂糖でもこもこのメレンゲをつくり、それを練った生地と「ヤサシクネ」と言いながら、ゆっくり、そぉーと混ぜ合わして、メレンゲが見えなくなったら型に流しオーブンに入れました。オーブンの中でよく膨らんだケーキをみて、彼女は満足げでした。

 焼く時間に1時間位、冷ます時間にも1時間ぐらいかかったでしょうか、やっとまちに待った試食タイム。まずいんだろうなぁと内心思いながら一口パクリ。ン? エ? 何これ? もう一度口に入れてみました。

  おいしい!!彼女と「おいしいね」と言いながらパクパク半分位食べてしまいました。(この時使用した型は直径23cmの大きさです)

 どうして?どうしてほとんど逆といっていいほどの作り方なのにおいしくできるの?しかも彼女の作り方の方が簡単!どうして?

  この時以来です、私がシフォンケーキにはまってしまったのは。

 彼女は私が作った、生地の中にフルーツや野菜などいろいろ入れたかぼちゃやバナナのシフォンケーキ、その他のシフォンケーキを見て、アメリカではこんなにいろいろなものが入ったシフォンケーキはないと驚いていました。

その後、何度か彼女にアメリカのお菓子を作って見せてもらいましたが、彼女の仕事が忙しくなったのと、私も教室だけではなくお菓子を売る店舗をオープンすることになり、お互いに合うことが遠のいてしまいました。